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安全・安心な場の必要性
 最近、人材開発の現場でも「安全・安心な場」という話題が増えています。
 特に新たなこと、改善・改革に取り組む場面において、安全・安心の必要性
が取り上げられます。ここでの“安全・安心”は、安全・安心な状態で発言し
たり、議論したり、アイデアを出したり、意見交換したり、意思決定できるこ
とです。安全・安心なコミュニケーションができる場という意味合いです。

 “新しい”と“安全・安心”は異なると感じるかもしれませんが、組織にお
いては安全・安心と言う土台がしっかりした上でなければ、新たなことに取り
組むことが困難になります。チャレンジできる土台・前提として、安全・安心
が確保されている必要があります。

 しかし実際は、逆のことが行われていることがあります。例えば、マズロー
の欲求段階説で考えると、人間の欲求の段階は(表現は様々なですが)、生理
的欲求、安全の欲求、所属の欲求、自我の欲求、自己実現の欲求と言われます、
土台(基本・基礎的)の欲求を満たすことよりも、自己実現の欲求や自我の欲
求といったより高次の欲求ばかりが取り上げられたりしています。

 自己実現や自我の欲求を持つ人材を中心に採用する・育成する、逆に言えば、
そういう欲求を持たない・そぐわない人から、切り捨てる、そういう動きがあ
ったのではないでしょうか。結果として、組織の中から安全・安心や所属と言
った風土・雰囲気が弱くなり、いくら高次の欲求を求めようとも、落ち着いて
考える風土・雰囲気が無くなってしまったような組織も散見されます。

 ネットの世界でも炎上するという表現がよく使わるます。場にそぐわない?
発言をすると一斉に攻撃の対象になることもあります。勿論、発言内容で様々
だと言えますが、結果として安心して発言できない雰囲気が存在してます。変
わった意見を出して批難されるよりも、無難な意見に終始する傾向が強まって
いるのではないでしょうか。以前より「下手なことは言えない」…そんな雰囲
気が広まっているように感じます。

 前述のマズローの欲求段階説で考えると、本来組織が力を入れるべきは、生
理的欲求、安全の欲求、所属の欲求を確保、安定化させることです。その上で
様々な個性を活かす取組み、自発的・主体的に個性が発揮されるような取組み
が必要だと言えます。実際は、土台が安定していれば、何も取り組まなくても、
より高次の欲求を求める人材が勝手に出現すると言えます。逆に、全てとは言
いませんが、成果主義が失敗しているケースは、土台を忘れ、自己実現・自我
のみを組織が一方的に求めた結果なのかもしれません。

 いずれにしても混沌とした環境で、新しいもの・新しいことを作っていくた
めには、まずは安全・安心な場が必要だと言えます。皆様の周りでは、安全・
安心な状態でコミュケーションできる場は確保されていますか?


             (2011/10/31 人材開発メールニュース第652号掲載)
                          humanize:吉次 潤


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