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就職指導の現場から・2011年冬(2)
 ある日のこと、都内のセミナー会場にいた。その会場は立地が良いこともあ
り、企業の会社説明会が連日、多数開催されているのでも有名な施設である。
私は、某企業の研修の講師として、その施設に赴いた。開講は10時であったが
1時間も早く到着、自分の研修会場と周囲をフラフラしていた。

 その日もセミナールームは、大繁盛である。少し離れた部屋の前には受付を
している学生が列をなし、9時からスタートしているのか、別の部屋では既に
満席状態で学生が真剣な表情で着席しているのがみえる。

 ふと、あるセミナールームを見ると、ドアの前に数人学生が立っている。他
の会場と違って、ドアも開いていなければ受付のセッティングもない。但し、
案内看板には大手企業のセミナー会場と記載されており、10時〜16時と表示が
あるのがわかる。数人の学生は頭をかしげながらしばし佇み、時間までロビー
で待つつもりなのか移動してしまった。

 そのままその部屋を眺めていた。次に、女子学生がその部屋に来た。その学
生もおずおずだが周囲を見渡し、おもむろにドアをノックして中を覗く。そし
て、なにがしかの挨拶をして部屋の中に入っていった。中には当該企業の担当
者がいて、準備か何かをしているのだろう。

 その後も、暇に任せてその部屋を注視する。20分くらいの間に会場の前に来
た学生は約70人ばかり、ドアノックして会場内に入った学生は3人、後の学生
はドアノック一つすることなくロビーや洗面所に一旦待避してしまった。中に
は、7−8人集まったのだが、一人の学生の「受付まだのようなのでロビーで待
ちませんか」という言葉に促されて集団で移動してしまったケースもあり、な
ぜ、ドアをノックして中を覗こうとしないのか、見ている私にはもどかしくイ
ライラが募るばかりだった。

 そして、9時50分近くになりその会場前に、再び、学生たちが集まってきた。
すると突然、そのドアが開き、中から担当者が二人出てきて会場内に学生を誘
導し始めたのである。会場内に踏み入れた学生たちは既に4人(私の見ている
限りだが)の学生が着席している姿を見て驚いたのではないだろうか。少なく
とも最初に会場内に入った学生から、群れをなして入ってきた学生までで30分
近く時間の差がある。

 やや穿った見方だが、「ドアをノックする」たったそれだけの行動がとれな
い。説明会には会場前に受付があり、お客様のように会場に招き入れられるも
のであるという先入観(パターン)があり、それ以外の状況で自主的に行動で
きない今の学生の行動スタイルに、私の目には映った。ドアノックをするリス
クも回避してしまうようにも感じてしまった。たかがノックくらい…のことだ
が、そのたかがノックくらいができないのが大半なのだ。その事実に驚き、お
ののく。

 そして、そうした学生が自己PRで「行動力があります」「好奇心旺盛です」
「リスクを恐れず挑戦します」「状況判断に自信があります」と言うのだ(と
思う)。そのことにも戦慄が走る。


             (2011/03/07 人材開発メールニュース第620号掲載)


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