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中高年再雇用者研修の現場から
 2月中旬に、私としては初めての体験である研修の講師を務めてきた。
 依頼主は某飲料メーカーの地域販売会社、テーマは自動販売機の拡販営業、
1日コースで9時-17時の開催時間、受講生は8名。ここまでは通常の仕事と変わ
らない。受講生が少なく、じっくりとロープレなどに取り組めるどちらかと言
えば恵まれた仕事環境でもある。

 問題は対象者である。研修会場に入る。そこには明らかに通常の研修とは違
う雰囲気が漂う。何となく会場は暗く? 活気がない。別の言い方をすれば、
落ち着いた、いや、沈んだ空気が流れ、浮ついた言葉一切聞こえない。

 実は、研修受講生は昨年定年退職された方々、すべて60歳以上の人たちであ
る。事前の情報よれば、全員、契約社員、営業として採用されている。私のお
客様が自販機拡販に向けて、他業界で実績を上げてきたベテラン社員の経験を
活かそうと、新たに募集した人たちである。応募者120人から選ばれた精鋭で
もある。

 他業界で実績を上げてきた人たちとはいえ、営業経験のある人は3名、飲料
系の仕事をしてきた人は皆無という状態で、扱う商品や営業内容は初体験とい
っていい。冒頭から困難が予想される。

 しかし、よく考えたものである。定年退職した人たちの経験や人脈を活用す
るアイデアはそれほど珍しくはないとはいえ、それなりに地域の顔であったり、
地域の路地裏、隅々を知り尽くしている可能性がある人たちに地域密着の自販
機を拡販してもらうのは的を射ているとも言える。受講生の中には、自治会の
役員をしていて行政にも知己が多い人もいる。かなり強力な戦力になるのでは
ないかと期待できる。

 一方で、研修は営業経験の少ない人が多いということで、厳しさはなるべく
押さえ上で、基本的なスキルを身につけてもらうように展開した。そんな時、
スキルの習得や物事の進め方で、受講生間に差がつく感じがした。それはいか
に経験・実績や人脈が豊富であっても、それを横に置いておいて真摯、素直に
学ぼうとする人と、当然、過去の自分が先に立って、新しいことややり方を受
け入れない人との差である。後者の方は何か演習をしてもらっても、学んだこ
とをやらない、失敗すると言い訳ばかりする、二言目には「以前は…」「前の
仕事では…」と出てくる。学ぶことを拒絶する姿勢すら垣間見せる。当初の期
待値がいきなり大幅ダウンした人もいた。

 4月にフォローとして2回目の研修が予定されているので、その成果がどうな
っているか楽しみである。


             (2010/03/22 人材開発メールニュース第573号掲載)


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