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読書考『津軽百年食堂』
 『百年食堂』−青森県は、三世代もしくは70年以上続く大衆食堂を「百年食
堂」と称している。これは『津軽百年食堂』(小学館刊、森沢明夫著)を読ん
で知った。本の帯には「読んだあと、一週間は心がほかほかです」と書いてあ
る。まさにそんな本で、四代続いた津軽そばの店を舞台とし、5月GWに220万
人訪れる弘前城のさくら祭りも出てくる、雪国の人たちが遅い春の訪れに読む
にもってこいの本である。

 私は、この10年ほど、青森市に年10回くらい通っている。青森市はあまり風
情やら歴史が感じられる町ではないが、弘前市は津軽三味線と洋館や煉瓦の教
会が共存していても似合う歴史と伝統を感じる街で、時間があると年に1回ほ
ど足を運ぶ。弘前さくら祭りは見たことはないが(当然のようにねぶたとさく
ら祭りの時期に仕事はない)、さくら祭り直前に弘前公園を訪れたことが一度
あり、津軽富士岩木山を借景として咲きほこる桜の花に埋もれるように屹立す
る弘前城天守閣は息をのむほど美しく言葉を失う。

 『津軽百年食堂』を読みながら、夕日に映える岩木山と桜満開の弘前公園を
思い出すと本の内容以上に心がポカポカとしてきた。

 ちなみに、『津軽百年食堂』そのもののモデルは黒石市にある。黒石市とい
えば、弘前から弘南鉄道で30分、終点の街である。
 津軽こけしも有名だが、「こみせ(小見世)通り」という歴史的建造物と木
造のアーケードがなかなか風情があって見物。また、黒石と言えば、「やきそ
ばのまち」ともいわれ、黒石焼きそば、つゆ焼きそばで町興しである。特徴は、
太くて平らなコシの強い麺でありながら、もちもちした食感。私は、以前、見
るからに壊れそうな古いお店−藻川屋で黒石焼きそばを食した。この店、焼き
そばはもちろん美味しかったのだが、食している間に何人もの客が来て「たい
焼き」を何個も買っていく。実はたい焼きがメインだと後から親父が教えてく
れた(甘い物苦手で食べず)。

 麺食いの私がもう一つアピールしたいのが、「津軽そば」。『津軽百年食堂』
の商売品である。津軽そばは、つなぎに小麦粉を使うのではなく、大豆の粉を
使うもので、非常に柔らかく麺が切れやすい。小麦粉が貴重だった時代に比較
的手に入りやすい大豆で作り、日持ちを良くするために煮置きしておくという
そばである。だから生蕎麦ではない。出汁は魚系で、強さとかコシとかは感じ
ないが、しんみりと身に染みる優しい食べ物である。一食の価値あるものだ。
手間がかかるので弘前市内でも扱っている店は少ない。あっても幻の津軽そば
と書かれている。

 ということで、まず、時間があったら『津軽百年食堂』を読んでください。
そして弘前、黒石を訪れてください。ついでに青森市も。
 あんずましいから(津軽弁で、心地良い、落ち着く)。


             (2009/05/25 人材開発メールニュース第532号掲載)


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