Back Number

内定取り消しの現場から
 1月に奇妙な仕事の依頼が来た。知り合いの人材紹介会社から「内定者教育
をしたい」という企業があるので同行して欲しいとの連絡があり、都内某所に
向かう。先方は、技術者派遣会社、内定者は26人だという。

 担当者が出てきて話を始めると、にわかに当方の頭は混乱してくる。話の内
容は、まさに唖然、ボー然たるもので、事前に聞いていた内定者教育は入社を
前提とした教育ではなく、『26人の内定を取り消すので、次の会社に採用が決
まるまでの教育・指導(履歴書作成や面接など)』をして欲しいというもの。
内定者教育の意味が違うだろう!と突っ込みたくなった。その企業の取引先は
電機メーカーが多く、急激な業績悪化で仕事が激減、現有社員の雇用確保にも
汲々、新卒に振り向ける仕事もない。技術者派遣会社だから、事務所にデスク
も居るスペースもないとのこと。事情は十分わかるが、時代を反映したまさに
“今風のテーマ”だと思うと同時に、世も末だなあとしみじみと感じてしまう。

 幸か不幸か、仕事はボツになった。先方の話によると、自主的な内定辞退が
3人(2人は公務員に合格)出たこと、学生を集めた説明会で事情を説明したと
ころ(このときは内定取り消しと言わず、業績の説明と今後の見通しを話して、
それとなく厳しいことを伝えた)、5名辞退者が出たこと、既存社員の早期退
職実施による社員減があったこと、キャンセルになった仕事が復活して仕事の
目処が多少立ったことなどで、残り18名の新卒は無事入社が決まった(1月23
日現在)。しかし、他の仕事が3月末にどれだけ契約受注、更新されるかによ
っても安心はできないそうだ。

 昨年末から頻出した内定取り消し(文部科学省の調査によれば、今年1月5日
までに判明した内定取り消し数は753人、これは氷山の一角で、もっと多いと
は思うが…)を受けて、厚労大臣の諮問機関・労働政策審議会は、新卒者の就
職内定を取り消した企業名を公表する際の基準案を決定した。
 a.2年以上連続での取り消し、b.取り消し数が同一年度内に10人以上(他の
安定した雇用先を紹介し、速やかに就職が決まった場合を除く)、c.生産量な
どからみて事業縮小を余儀なくされていると明らかに認められない、d.取り消
し理由を学生に十分説明しない、e.他の就職先を確保するための支援をしない、
のうち1つでも該当すれば公表の対象とするとのことだ。

 件の会社は、現状、上記2項目のうち、確実にb.は該当するが、c.を学生にd.
として十分に説明し、e.の対策も行ったという、悪く言えばアリバイ作りを先
にやっておこうとする魂胆も垣間見えた気がする。

 また、内々の処理、内定取り消しと言わなくても、何となくその方向にもっ
ていくことなども考えれば、上記基準も抜け道はたくさんあるように思える。
いずれにしても、内定取り消し企業を公表することを議論しなければならいな
事態も由々しきことだろうし、少々、情けなくもなってくる。
 そういう時代に生きなければならないことが残念でならない。


             (2009/02/09 人材開発メールニュース第518号掲載)


Go to Back Number Index
Go to Top Page