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品格ブーム考
 「品格」−広辞苑で引くと1.物の良し悪しの程度、しながら2.気品、品位と
ある。折しも書店にはさまざまな「品格物」出版物が所狭しと並んでいる。

 品格ブームの発端は、藤原正彦氏著「国家の品格」であり、坂東眞理子氏著
「女の品格」「親の品格」が続き、燎原の火のように広がったような気がする。

 都内の大手書店に立ち寄ったところ、偶然にも「品格物」の書籍特集のコー
ナーがあったのでのぞいてみた。あるわ、あるわ、皆、「○○の品格」が続く
ので品格の部分は省くが、列挙してみる。ベストセラー、口火役を切ったのが、
国家、親、女となれば、対句のように対抗テーマが出てくる。「男」「父親」
「母」「子ども」「大人」「夫婦」「総理」「日本人」と続き、「会社」「企
業」「社長」「老舗」「上司」「仕事」「派遣」にも品格は必要だし、命を預
かる「医者」「医学・医療」「病院」にも品格を求め、お金を預かる「銀行」
の品格、「教育」「学校」「話し方」も品格は問われる。

 スポーツの世界では「エース」「横綱」は品格がなければならないが、土俵
上で小競り合いをしてにらみ合う横綱の品格はどうなのだろうか。「恋」にも
「自分」にも「朝めし」「飲んべえ」「県民」「老い」にも品格は必要らしい。

 実にさまざまなことに品格を求められる時代になったと唸るしかないし、書
店コーナーの前で立ち尽くしてしまった次第である。そのうち、「猫の品格」
「犬の品格」などという本も出かねないことを考えると、我が家にいる二匹の
猫も飼い主同様、品格を問われるといささか心許ないので、品格ある飼い方を
試みておかねばならないと固く誓うのであった。

 一方で、前述した本の著者たちは、品格も教養も高い人ばかりなのだろうが、
「品格ブーム」に便乗して(これも品格を疑われる表現でした。「ブームを活
かして」が品格のある表現なのかもしれないが)、品格物の本を出版するのは
「品格的」にはどうなのであろうか。ちなみに「著者の−」「出版社の−」は
並んでいなかった。

 翻って、自らの姿や頭の中、立ち居振る舞い、生き方を顧みてみると、「品
格」と無縁、下品まではいかないとは思うが、程遠い存在を感じる。唯一対抗
できる「飲んべえの品格」も怪しいなあ。
 要は、私のような人間に向けられた本ともいえる。ちなみに私は「国家の−」
しか読んでいない。読書好きの品格さえも持っていないのかもしれない。


             (2008/06/09 人材開発メールニュース第485号掲載)


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