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読書考「木のいのち 木のこころ」
 「木のいのち 木のこころ」…読者でも読んだ経験のある人も多いだろうが、
最後の宮大工と呼ばれた法隆寺金堂、三重塔、薬師寺金堂などの再建を果たし
た西岡常一氏の著書である(草思社刊)。人づてに聞いて読みたいとずっと願
って、最近、やっと読むことができた。

 名匠、名宮大工としての木や道具に対する鋭く深い洞察や、木を知り尽くし
て木を最大限に活かすための考え方や含蓄に富んだ言葉一つひとつにしみじみ
と、そして大きく唸るばかりの連続であった。

 その中でも一際、感心しきりだったのは法隆寺大工に代々口伝で伝わる言葉
の数々であり、その口伝の一部が本で語られているので紹介したい(詳細は同
書を購入のうえ読んでもらいたい)。

  一、神仏をあがめずして社頭伽藍を口にすべからず
  二、伽藍の造営には四神相応の地を選べ
  三、堂塔建立の用材は木を買わずに山を買え
  四、木は生育の方位のままに使え
  五、堂塔の木組みは寸法で組まず木の癖で組め
  六、木の枠組みは工人たちの心組み
  七、工人たちの心組みは匠長が工人らへの思いやり
  八、仏の慈悲心なり、母がわが子を思う心なり
  九、百工あれば百念あり、これをひとつに統ぶる。これ匠長の器量なり。
    百論ひとつに止まる、これ正なり
  十、百論をひとつに止めるの器量なき者は慎み畏れて匠長の座を去れ
 十一、諸法の技法は一日にして成らず、祖神たちの神徳の恵みなり、祖神忘
    るべからず

 現代の我々が聞いても役立つ言葉が多い。私の拙い頭ではすべてを消化する
までには至らないので恥ずかしい限りだが、木や工人を社員、部下・後輩に、
匠長(棟梁)をリーダーと置き換えると人の用い方やリーダーとしてのあるべ
き姿、木を活かすことヒントが多く含まれているといえる。特に、後半の匠長
への口伝は、棟梁としての厳しさを感じるのは私だけだろうか。


             (2008/05/26 人材開発メールニュース第483号掲載)


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