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テレビのチカラ
 「テレビ」の力は大きい。インターネットがいかに普及しようとも生活に密
着したメディアとしての力、影響力はまだまだ十分にある。「テレビのチカラ」
と銘打ったテレビ番組では、まさしくテレビの力を使って失踪者の捜索や難事
件の解決に尽力している。年末の紅白歌合戦が国民的行事から国民1/3行事
に変わっても、その話題性はやはり国民の生活に不可欠なテレビだからこそだ
ろう。テレビCMの影響力も同様に高い。

 そんなテレビであるが故に、放送に関わる人たちは人権、プライバシーへの
配慮など社会的影響に十分配慮しなければならないことは当然といえる。テレ
ビのチカラを誤用すれば、世の中から人一人葬り去ることもできるし、政権党
の世論操作にも使える大きな凶器になる。反面、うまく活用すれば、イメージ
戦略、広告宣伝、一人の無名なタレントを一躍スターに仕上げることもできる
のだ。

 昨年末、テレビを見ていた。大物キャスターMMの早朝からの帯番組である。
ニュースのコーナーで、横浜で起こった1歳女児の死亡事故を扱っていた。大
手セキュリティ会社S社が設置した商店街の防犯カメラのケーブルが、市の基
準より低く設置した工事が原因で起こった事故であった。画面は同社社長の謝
罪会見を流していた。そのとき、キャスター氏は「いやあ、S社は社長が会見
に出てきて謝罪する。立派ですね。なかなかできることではありません。我が
家もS社に警備を頼もうかな」式のコメントをしたのである。このコメントに
私は唖然としたうえ、慄然とした気分に襲われた。

 このキャスター氏は、安全を守ることが仕事のセキュリティ会社の杜撰な安
全管理を糾弾することもなく、その杜撰な工事によって幼い命を失った女児、
その家族への哀悼の意も示すことなく、トップが謝罪した立派な会社に事件を
すり替えたうえに、短絡的に賞賛して終わりだ。視聴者の心証はS社に好意的
なものになることは予想される。見事に事件・事故の論点をずらし、本質を隠
すコメントであった。

 そもそもこの会見、新聞報道され警察が調査に乗り出したことを受けて行わ
れたもので、自主的に行われたというより後手、後手の対応の結果だ。被害者
への謝罪も時間が立ってから行われたことも同社への批判になっていたものだ。
それが立派な会社なのか。報道する者がきちんとした裏付けもとらず、直感、
思いつきで、ズバっと、思いっきり、口にしても良いのであろうか。それとも
計算された意図したコメントなのであろうか。

 ほとぼりが冷めたら、近い将来、このキャスター氏が同社のCMや同社提供
の番組に出演するようなことがあったら、本当に“テレビのチカラ”なんだと
思う。


             (2007/01/22 人材開発メールニュース第417号掲載)


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