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次の世代へのバトンタッチ
 毎年8月下旬を迎えると20数年前の新入社員の頃のことを思い出す。私の
ファーストジョブは、媒体系の広告代理店での言う営業マンであった。
 その会社では新入社員に企画物の広告営業の現場研修があり、飛び込みセー
ルスを行う。私はその飛び込み研修で思いがけず新規客を獲得できた。長年実
施されているその研修で新規を獲得したのは私が初めてで、えらく褒められた
記憶がある。

 話はそのことではない。その企画物の営業で飛び込み、そのときはお客にな
っていただけなかった会社から広告を出稿したいと電話が入った。夕刊の全5
段、新人の私には飛び上がるほどの大きな仕事であり驚きであった。その後、
制作打ち合わせや内容のやりとりをして、掲載日は8月30日。その日に掲載
紙を持参したい旨、先方に電話を入れると、近くまで行くついでがあるので当
方の会社に立ち寄ってくれるという。昼過ぎに自社の応接でお会いした。

 掲載紙を受け取ると、その担当者は「佐藤くん、初の広告、おめでとう。実
は私は今日これから社に戻って業務を終えたら定年退職を迎えサヨナラです。
ということは私が担当する広告の最後がこれになります。私の名前は佐藤○○、
あなたの名前は佐藤孝夫くん。今日を境目にビジネス社会で佐藤と佐藤が入れ
替わるということです。この広告は、若く将来性のある新・佐藤くんへの投資
であり、あなたのやる気やバイタリティ、あなたの社会人のスタートへの餞と
考えてください」と言った。

 私はその言葉を聞きながら、場所柄もわきまえずにポロポロと涙を流してい
た。いくら人が良いとはいえ、いきなり飛び込んできてしつこく訪問を繰り返
し、訳のわからないことをまくしたてる他社の新人営業マンに100万円を超
える広告費を出す会社、担当者はいないと思うが、その担当者の発言は次の世
代へのバトンタッチを意識したものだったろうと思うし、その気持ちがズシリ
と心に響いた。
 次回にその会社に訪問した際には新しい担当者に替わっており、やはり定年
退職されたという。

 毎8月下旬、自らも次世代を意識する年齢になればなるほど、初心、原点見
つめ直すとともに、「自分は次の世代に何をしてあげられるのだろうか」と自
問自答してしまう。


             (2006/08/21 人材開発メールニュース第396号掲載)


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