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人事制度で人は伸びる?伸びない?
 人事制度の構築・改定のプロジェクトに参加してお手伝いする機会も増えて
いますが、いつも「何のために」「誰のために」ということを確認しながら作
業を進めるようにしています。「何のために」「誰のために」を確認しないと
作業の方向性がぶれることが多いためです。

 人材を成長させるために人事制度の構築・改定を行っているという話も当た
り前のようですが、「できる人を伸ばす」ための仕組みなのか「できない人を
明確にする」ための仕組みなのかを考えてみることも必要だと思われます。こ
ういう話をすると、大抵はできる人を伸ばすために仕組みを作っていると言わ
れますが、できる人を伸ばすためには、評価制度や人事制度の構築・改定が本
当に必要か、と再考することも一つの方法です。

 勿論、最低限のものは必要かと思われますが、できると言われている人ほど、
あまり会社からの評価を気にしている人は少なく、賃金制度や評価制度という
行動・成果に対するリターン(=終わったことの評価)よりも、これからどん
な仕事ができるのか、自分のやりたいことがやらせてもらえるのかということ
に興味を持っているように思われます。企業側からすれば、「できる人を伸ば
すため」に整備していることも当の本人からすれば、それがモチベーションに
つながっているかどうかは確認すべきです。勿論、過去評価型の人事制度では
なく、未来の個々人のキャリアビジョンをサポートする人事制度ということで
あれば、この限りではありませんが…。

 では一方、「できない人」を明確にするために人事制度を作っているのかと
言うと、これも恐らく多くのところではそうではないと言われると思います。
予めはっきりさせておくべきは、評価するのは「コト」であり「ヒト」ではあ
りません。○○さんは、「できないヒト」だと烙印を押すことが制度作りの目
的ではありません。できていない「コト」を理解させ、できるように導くこと
が本来の目的であるように思われます。

 いずれにしましても、できる人をさらに伸ばすと言うことで考えると、人事
制度・評価制度は不満を抑制することにはつながるものの、それがさらに動機
づけにつながることは少ないように思えます。

 制度構築・改定の際に、人事担当部門が一生懸命になればなるほど、ロジカ
ルな作りこみを目指していくことが多いようです。それ自体は悪いことではあ
りませんが、「人材を伸ばす」ということで考えれば、制度の構築・改定は、
必要条件ではあるが、十分条件ではないということも真摯に受け止め、「何が
目的か」と絶えず振り返ることも必要だと思われます。またロジカルな作りこ
みが進めば進むほど、実際に運用される側(社員)との感覚の乖離も大きくな
る傾向があります。現場主義、運用する側が使用しやすいか、理解しやすいか、
「誰のために」改定しているかを考えることも大切な要素です。

 私も人事制度の構築や改定をお手伝いする立場として、構築・改定を担当す
る部門、担当者の苦労はある程度理解しているつもりです。一生懸命になれば
なるほど、作り手主導になり、実際の運用場面で作り手の苦労や努力が現場で
あまり理解されていない場面も数多く見てきました。そうならないためにも、
たえず大局的な見地から見直す余裕?を持っておく、制度の構築・改定は手段
であり、目的ではないことを認識することが大切だと思われます。
 ロジカルな作りこみを否定するわけではありませんが、ある程度作ってトラ
イ&エラーを都度拾っていくという進め方も必要だと思われます。


             (2004/08/09 人材開発メールニュース第297号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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