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自己責任による能力開発と人材開発
 前回200号の発行を行いましたが、その後たくさんの方から励ましのメッセー
ジをいただきました。ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

 すでにこのメールマガジンをスタートして5年目に突入したわけですが、人材開
発、特に人材育成を取り巻く環境は刻々と変化しています。エンプロイアビリティ
のような考え方も含め、企業で行う教育訓練と個人の自己責任による能力開発のす
みわけが非常に早いスピードで進んでいます。特に「自己責任による能力開発」へ
の期待が非常に高まっていると言えます。

 ただし、個人の自己責任だけに依存する企業では、個々人の能力開発の方向は、
その会社に通用するものだけでなく、より一般に通用するものに流れていく傾向が
強まっています。その結果、「キャリアを自ら考え、計画的に自己投資を行い、自
ら能力開発できる」優秀な人材が発生する一方で、そのような人材に魅力的な仕事
や環境を提供できない企業においては、優秀な人材がより能力を発揮できる環境を
求め、社外に流出する現象も生じているようです。

「業績」と「人件費・教育訓練費」のコストパフォーマンスを短期的な視点だけで
見ると、分母の支出をどう抑えるかが即効性と言う点ではわかりやすく、手がつけ
やすい方法であるかもしれません。しかし、社会全体に閉塞観がある状況の中で、
分子をいかに増やすか、いかに獲得するかを発想する勇気・挑戦が社会全体に求め
られているような気がします。
 様々な企業を訪問する中で、人材育成に関して経営トップがたくさんの注文を出
しています。しかしよく聞いてみると、「アウトプットに注文を出す企業」と「イ
ンプットに注文を出す企業」とはっきり分かれつつあります。どちらの企業でも人
材開発の担当部門・担当者は、トップからの要求に応えるために色々な手を打たれ
ているように思われます。しかしどちらがより前向きに取り組んでいるかと言えば、
間違い無く前者であると言えます。人材開発分野におけるデフレスパイラル〜「人
件費・教育訓練費」と「業績」の関係が縮小循環に陥っている企業も少なくありま
せん。
 短期、中期的な視点も含めて、業績を伸ばすため必要な投資は何か、そのために
必要な教育訓練は何か、経営・事業を推進していくために欠かせない核となる人材
を獲得する、流失を防ぐためには何が必要か、真剣に議論する場が必要ではないで
しょうか。
 
 自己責任による能力開発を打ち出すのであれば、同様に企業として進めていく人
材開発をどこに選択・集中して行うのかを、はっきりと社内に指し示すことが、経
営トップと人材開発部門に期待されるミッションの一つではないかと思われます。


             (2002/09/09 人材開発メールニュース第202号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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