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中高年再就職支援と自立した…
 私はここ数年、地元福岡で中高年齢者の再就職支援のお手伝いをさせていただい
ております。すでにプログラムがスタートして2年半ぐらいが経過していますが、
この仕事を受ける前は、実際に自分より年齢が上の方に対して就職支援をするとい
うことで非常に抵抗がありました。しかし、日頃から企業の教育や採用のお手伝い
をしておりますので、中高年の方々に転職の指導するというよりも、企業(採用す
る)サイドの見方、考え方を伝え、転職活動に役立つ情報提供をするというスタン
スで継続しております。国の雇用促進の施策の一環として実施されていますので、
少しでもお役に立てればという気持ちでお手伝いさせていただいております。

 これまでにすでに1000人以上の受講者の方々と接してきました。セミナーという
形態で実施していますが、これまでの経歴や現在までの転職活動の進み具合など千
差万別で、お一人お一人抱えている問題は多様であり、できる限りマンツーマンで
話す機会を作りながら、セミナーを進めています。受講者の方々と会話の機会を増
やせば増やすほど、これまでの企業内の人材のあり方や人材育成のあり方を確認す
るような場面も多く、私にとっても非常に勉強の場になっていると言えます。

 再就職支援セミナー(個人的には「再」とつけることもおかしいような気もしま
すが)の中で、全般的に感じますのは、自分のことに関して考える機会、意志決定
する機会がこれまでの組織、会社の中で本当に与えられてなかった、必要なかった
ということを痛切に感じます。受講者の中には、錚々たる企業の出身者の方や代表
取締役を経験された方もいらっしゃいます。これまでの経験談をお聞きする中で、
企業や組織の方針に基づいた意志決定は、自信を持って実施されたことがよく伝わ
ってきます、しかし、その一方で会社、組織と言う枠組みを外して、「何でも自分
で決めていいですよ」という話や作業になると急に意志決定できない、遅い、正解
が無いにもかかわらず正解かどうかを周りに窺うような姿勢をとられる方が多いよ
うな気がします。
 自分のことに関する意志決定が遅かったり、できなかったりすることは、別にお
かしなことでは無いと思います。恐らくこれまでの企業経営においては、自分自身
のことや自分の仕事のことよりも、企業や組織のことを考えることが優先されてき
たと思われます。また企業側が企業や組織と言う枠を外して、考える機会を敢えて
奪っていたということも否定できないと言えます。

 今、人材開発の現場では「自立型人材」の育成という話題をよく聞きます。ただ
中高年の方々の就職支援を行っていると、今本当に必要なのは「自立した人材」よ
りも「自立した組織」「自立した会社」ではないかと思うことが度々あります。自
立が必要なのは、個々人よりも経営システムや組織のか価値観ではないかと思われ
ます。
 「企業、組織」と「人」の関係性をどちらか一方の利害に偏ることなく、双方の
成長につながるために何が必要かを考え、生み出す、いわゆる「大人の考え方」を
もって見据えることができる「大人の組織、企業」が必要ではないかと思われます。
 企業、組織が自立した価値観を保有しないままに、個人に対して自立した価値観
を求めることは難しいと思われます。「自立した」ということが人材育成の現場で
論じられる中で、あまりにも焦点が個人に向きすぎているような気がします。この
ことは、場合によっては間違った方向に進むことになるかもしれませんし、いつま
でたっても「自立した人材」の育成ができないことにつながるのではないかと思わ
れます。


             (2002/02/25 人材開発メールニュース第176号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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