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「教える」力と「学ぶ」力
 AさんがBさんに「教える」という行為は、逆の立場から見るとBさんはA
さんから「学ぶ」ということでもあります。企業内教育に限らず、教育は「教
える」ことと「学ぶ」ことが表裏一体であると言えます。したがって、「教え
る」力と「学ぶ」力、それぞれをエンジンとして考えると、二つのエンジンが
バランスよく力を発揮することで、スピードがあがったり、パワーが上がった
り、燃費がよくなったりすると考えられます。

 「教える」ことと「学ぶ」ことは、バランスよく力を発揮するのが理想では
ありますが、これまでの企業内教育では明らかに「教える」ことのウエイトが
高かったと言えます。企業の目標達成のために、また業務を遂行するために必
要な人材を確保するために、どう教えるかということが大きなテーマの一つで
あり、様々な教育手法が開発されてきました。
 しかし、情報が瞬時に流通されるまた大量に流通される現在において、「教
える」ことで得られる人材育成のスピードだけでは、技術革新のスピードに対
応できなくなりつつあります。そこでもう一つのエンジン、「学ぶ」力への期
待が高まっています。技術革新のスピードを上回る駆動力、推進力を得るため
には、「教える」エンジンだけを改良するだけでは限界があり、もう一つの
「学ぶ」エンジンが持つ力を引き出すことが必要になっているとも言えます。

 人材開発の現場において、個人の自発的な能力開発への期待が高まっていま
す。自らの能力開発には自ら責任を持って取り組みエンプロイアビリティーを
高めて欲しい、エンプロイアビリティーを企業と言う“場”で発揮することで、
成果に応じた処遇をしたいという論調が増えているのも、「学ぶ」ことに対す
る期待でもあります。
 現在、人材開発制度が見直される中で、「教える」機会については全体的に
見ると、減少している企業が多いと言えます。ただし、同じように人材開発制
度の見直しを進める企業の中でも、「学ぶ」力が確実に増えつつある企業とそ
うでない企業の差が現れ始めているようにも思われます。
 「学ぶ」力が増えつつある企業においては、全体的な「教える」機会は減り
つつも、「学ぶ」意思がある個人、組織の部分については、支援する仕組みが
以前よりも強化されています。「教える」という研修等の機会は減少している
が、個人、組織が自発的に「学ぶ」ことに関しては、時間、費用など制度面で
支援を強化しているケースが代表的な例です。
 逆にうまくいっていない企業は、「学ぶ」個人(組織)の重要性は主張され
ていますが、「学ぶ」個人(組織)に関して支援するという発想、取り組みが
ない、悪く言えば、個人任せの状態であると言えます。さらに「教える」エン
ジンがパワーダウンすると、ますます競争に必要な人材育成のスピードが確保
できない状況に陥る危険性があると言えます。

 今後ますます個人(組織)の主体的な「学び」に対する期待は高まり、「学
ぶ」個人(組織)をどのように作っていくかが重要なテーマになってきます。
そのためには、人材開発担当者(部門)が、「学ぶ」個人(組織)であること
が前提になるのではないでしょうか。


             (2001/11/12 人材開発メールニュース第162号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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