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人材開発のTOC(制約条件)
 先日、仕事仲間数人と集まってお酒を飲みながら、最近話題の「ザ・ゴール」
という本について、ワイワイガヤガヤ話していました。

 「ザ・ゴール」とは、イスラエル出身の物理学者エリー・ゴールドラット博
士が著したビジネス小説で、全米で250万部を超えるベストセラーを記録し、
アメリカ製造業の競争力を復活させた、TOC(制約条件の理論)の原典と言
われているものです。
 日本語版は初版から15年以上も経過した今年に発行されましたが、これま
で翻訳されなかった経緯も含めて話題になっている本でもあります。かなり
(相当?)厚みのある本ですが、小説なので抵抗なく読めるかと思われます。
生産管理を中心に書かれていますが、TOCそのものは、単なる生産管理の理
論ではなく、新しい会計方法(スループット会計)や一般的な問題解決の手法
(思考プロセス)へ応用され、アメリカの生産管理やサプライチェーン・マネ
ジメントに大きな影響を与えたと言われております。ビジネス全般について様々
な点で参考になることがあるかと思われますので、ご一読いただくといいので
はないでしょうか?

 TOCの考え方の特徴は、「制約条件」こそが、企業のアウトプット(利益)
を増やす鍵と位置づけていることにあります。企業の活動全体もしくはサプラ
イチェーン全体を1本の鎖にたとえると、鎖はいくつもの輪が集まってつながっ
ているものですが、その強度は輪によって異なると考えられる場合、鎖全体の
強度は一番弱い輪の強度と等しくなります。鎖全体を切れにくくするには、最
も弱い輪を探してそれを強化することが必要で、それ以外の輪の強度を高めて
も鎖全体の強度は強くなりません。これと同様に、企業やサプライチェーンの
生み出す利益も最も低い部分(活動)の制約を受けることになります。利益を
増やすためには最も能力の低い部分(活動)を強化すべきで、それ以外の活動
をいくら強化しても利益には貢献しないという考え方です。全体のアウトプッ
トを規定する最も低い部分を「制約条件(ボトルネック)」という言い方をし
ています。すなわち、システム全体を良くするためには、制約条件を探し出し、
それを改善することがより多くのアウトプットを生み出すことになると提唱し
ています。

 私達仕事仲間の間でも、生産管理ではもちろん、色んな場面でTOCの考え
方は応用できるという話をしていましたが、それでは人材開発や企業内教育を
ひとつのシステムと考えた場合(もちろんアウトプットの考え方はいろいろで
すが)、制約条件(ボトルネック)は何かな?という話題になりました。
 色々な意見が出されましたが、結局のところ、人材開発における制約条件
(ボトルネック)は、「経営者の人材に対する考え方やビジョン(勿論、形式
的ではなく本質的な考え方やビジョン)」が最も大きいという私達が行き着い
た結論でした。「経営者の人材に対する考え方やビジョン」を強化すると言う
のもおかしな気もしますが、人材開発というシステム運営する上で、経営者の
考え方以上にシステムが運用されることもなく(例えば、予算や人材開発スタッ
フの配置など)、フル稼働したとしたしても、「経営者の人材に対する考え方
やビジョン」以上にアウトプットが算出されることはないというのが私達の結
論でした。

 私達の間では、「経営者の人材に対する考え方やビジョン」が改めて大事だ
という認識したこともありますが、と同時に人材開発サービスを提供する立場
から考えると「経営者の人材に対する考え方やビジョン」を所与の条件として
考えるかどうかも大事だという話になりました。所与の条件(前提条件)とし
てその範囲内で、できるだけのサービスを開発することも大切ですが、経営者
に対し情報を提供することで「経営者の人材に対する考え方やビジョン」を進
化させていくこと、所与の条件(前提条件)そのものを変えていくことも人材
開発に携わる一人一人の大事に役割になるのではないかと思われます。
 人材開発、企業内教育における制約条件、皆さんはどのように考えられます
か?


             (2001/09/10 人材開発メールニュース第153号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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