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中小企業の人材育成例…経営レベルの仕事を体験させる
 企業規模の大小を問わず、人材育成が必要であるという声は良く聞きますが、
人材育成意欲が高い企業規模が小さい企業であればあるほど、人材育成に関す
る悩みは大きいようです。
 中小企業では、従業員の絶対数が少ないため頻繁に集合研修を実施するのは
難しい、人材開発について詳しい人材が社内にいないため人材開発を具体的に
どのように進めていくかわからない、さらに人材育成に関する投資環境も大企
業に比べて整備されていない状況が多く、計画的に人材育成を行えるような状
況ではない、など様々な悩みを聞くことがあります。

 特に企業規模が小さく、しかもまだ歴史が浅い会社に共通する点ということ
で、必要に応じて中途採用を繰り返し社員を増やしてきたために、年齢、社歴、
役職がバラバラであり、人材育成を始めようとしてもどこからやればいいかわ
からないという声を聞くことが多々あります。
 中小企業における人材開発では、人材像(ビジョン)や体系的な人材開発計
画が必要であること言うまでもありませんが、最初から体系的なものを作り上
げると言うよりも、企業組織の成長度、成熟度に併せて戦略的なものを練り上
げつつ、当面の課題に対応するというような戦術的なものを同時並行で進めざ
るを得ないと言うのが現実的ではないでしょうか。
 このような状況の中で、中小企業であればあるほど、焦点を絞った人材育成
が必要になっていると言えます。

 それでは、中小企業の人材育成の進め方として具体的な方法としてどういっ
た方法があるのでしょうか。最近私がお話を伺ったある企業の例を紹介させて
いただきたいと思います。
 この会社は従業員50名程度で、平均年齢28歳、社歴も創業8年とアーリー
ステージを終了したベンチャー企業です。この会社には体系的な教育制度もな
く、また社内に人材育成に詳しい人材もいません。ただ、以前から人材育成に
ついては問題意識が高く、機会を見つけては社員を公開セミナーなどに派遣し
ていた企業です。しかし、より実践的に人材育成を図りたいと考え、現在試験
的に実施しているのが、経営管理者のアシスタント制度と呼んでいるものです。
 もう少し具体的に説明しますと、若手の社員を選抜して、会社の中核である
役員、部長付き秘書業務、アシスタント業務を1年間経験させるというもので
す。この会社では、経営に関する重要事項を4名の役員、部長の方で運営され
る経営会議で決定しています。経営会議の参加者である4名の役員、部長のア
シスタントを1年間身近で体験することで、会社の方針やいろいろな経営課題
の解決プロセスを理解させると言うねらいがあり、教えると言うより、そばに
いて感じていただくようなやり方であると言えます。また運営方法でユニーク
なのは、1年間同じ役員、部長のアシスタントをするのではなく、若手を4名
選抜し3ヶ月ごとにローテーションを実施し、1年間で全部の役員、部長のア
シスタントをする仕組みをとり、1年間のアシスタント期間が終了した後に、
今後希望する仕事などを面談するような形をとっています。

 選抜された社員は、経営に近いレベルで仕事をすることで、1年間のアシス
タント期間終了後も自分の担当する業務という部分感だけでなく、会社全体の
方針や流れを汲んで仕事をするというような全体感が醸成され、前向きに業務
に取り組んでいるとのことでした。
この会社では、無理に集合研修を実施したり、公開セミナーに派遣するよりは、
実践的な方法だと評価しているようです。
 また、この会社では、アシスタント制度への人選を本人希望より社長の選抜
と言う形で行っております。正直、選ばれなかった人材の中には少し不満を漏
らすものもいるようですが、むしろアシスタント業務を経験させたメンバーの
成長を見れば、成果が評価できるとこの会社の社長はお話されていました。

 社歴の浅いベンチャー企業、特に若い人材が多い会社では、社員の専門性は
あるが、経営感覚が乏しいと言うことも良く言われます。そのようなタイプの
会社には、経営感覚を醸成するという意味でも非常に有効な方法ではないでしょ
うか。


             (2001/06/25 人材開発メールニュース第143号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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