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こだわりを持つ企業
 今回は、私がお手伝いしている会社の事例について紹介してみたい。
 その会社は健康食品関係の通信販売を行っている会社で、売上も利益も倍以
上に伸び続けている成長企業である。
 当然通信販売を行っている会社であるために、顧客と接する電話オペレータ
のサービス水準がこの会社の重要なポイントである。3年前は、正社員のオペ
レータが4〜5名であったが、現在は約50名、今後も事業拡大とともにオペ
レータの増員が予定されている。この会社から、オペレータの質を向上させた
いと依頼があり、とりあえずオペレーションの現場の視察と実際に何人かオペ
レータの方々にヒアリングを行った。

 オペレータの業務は、ほとんどがインバウンド業務であり、基本的にはお客
様からの注文や質問に答えることを中心に業務を行っている。まだ、会社自体
が若いと言うこともあり、オペレータのレベルは、話し方や言葉遣いも含め、
決して高いとは言えないが、一人一人が非常に一所懸命対応しているという印
象を受けた。しかし、オペレータの行動で一つだけ気になったことがあった。
それは、電話で応対しているときに誰も自分の名前を名乗らないことである。
電話応対の基本から考えれば、必ず対応した者が名前を名乗るのが原則である
が、この会社はだれも自分の名前を進んで名乗らないのである。

 このことに対して、オペレータやオペレータ部門の統括責任者に質問したと
ころ、敢えて自分から名乗らないようにしているとのことであった。
 健康食品は、電話をかけてすぐ注文すると言うよりも、必ず効用や品質など
について質問されるケースが多い。顧客の質問に親身になって対応していけば
必ず、顧客の方から名前を尋ねられる。尋ねられて始めて担当者が自分の名前
を告げるようにしているらしい。すなわち、顧客から名前を聞いていただける
対応を目標にしているということだった。
 全ての対応に対して名乗らないということに対しては、もちろん検討の余地
があるが、こだわり、目標を持って、オペレータ全員が取り組んでいる姿勢を
みると、この会社の成長している理由が感じられた。

 電話応対で、もうひとつ徹底していることは、「お客様の背景をイメージす
る」と言うことである。これは、話す言葉だけでなく、会話の中から、どうい
う状況で電話しているのか、どういう生活環境なのかをできる限りイメージす
るということである。
 オペレータに指示されていることは、上記の2つのことだけであり、マニュ
アルも存在しない。その代わり、上記の2つだけは、徹底的にこだわっている。
考え方のみを徹底させて、やり方については個人に任せている状況である。
 結果として、通販会社に電話したときにありがちな、事務的な対応ではなく、
ぎこちなさは抜けきれないが非常に人間的な対応ができている感じを受ける。

 この会社の現状を考えると、(成長段階にはあるが、まだ会社の知名度も高
くなく、優秀な人材を無条件で獲得できるレベルではない)、これからオペレー
タが増え続ける中で、一般的な電話応対をトレーニングするよりも、メンバー
が増え続けても、現在の風土や姿勢を理解させることが大切であると感じた。
実際現在も、オペレータを採用する場合、一括で大量に採用するのではなく、
定期的に1〜2名採用し、マン・ツー・マンでオペレータ統括責任者の方が自
社の考え方を徹底的に教えるという方法で進めている。当然今回の依頼は、事
業の成長スピードがこの方法で対応できなくなりつつあるためだが、今後の展
開については、また後日ご紹介したい。

 中堅、中小企業で伸びている会社には、一般的なやり方というよりも、企業
独自のポリシーやこだわりを鮮明に打ち出しているところが多い。また、会社、
社長、事業に対する忠誠心(ロイヤリティ)が高いと言う点が共通しているよ
うに感じる。
 めまぐるしく変わる環境の中で、企業が成長していくためには、環境変化に
対応することよりも、企業においては、自社のこだわり、ポリシーを打ち出す
こと、人材開発においては、こだわり、ポリシーを組織に浸透させること、
…知る・わかるレベルでなく個々人の創意工夫を生み出すレベルで浸透させる
こと…が今後ますます重要になるのではないだろうか。


             (2000/06/12 人材開発メールニュース第92号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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