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OJTの課題と今後の進め方(1)
 これまで、人材開発の3つの柱は、OJT、OFF−JT、自己啓発であり、
中でもOJTが重要であると言われてきました。しかし、OJTが機能してい
ないと言う声もよく聞きます。

 OJTがうまく行かない原因として挙げられるのは以下のようなことです。
○管理監督職に、部下育成の責任についての自覚が足りない。
○管理・監督者が人材育成の必要を頭ではわかっているが、行動がともなって
ない。
○会社が、OJTに対して、明確な方針を示していない。
○上司と部下との世代ギャップが大きくなり、意志疎通が難しくなってきている。
○実態として個々の管理者や先輩社員に任せっぱなしである。
○上司や管理者が忙しくなり、部下教育まで手がまわらなくなっている。
○管理・監督者が熱心に教育してもそれを適正に評価しない傾向がある。

 また最近では以下のような意見も多くなってきました。
○管理・監督者自身が仕事の変化についていけなくなり、部下のほうがともす
れば仕事が出来るようになってしまっている。
○技術革新の変化が早いため、これまで身につけてきたやり方や知識・経験が
活かせなくなってきている。
○職務内容がどんどん変わってくるので、教えたことが役立つ期間が短くなっ
てきている。
○部下の雇用形態や勤務形態の多様化がすすみ、標準的な育成方法の確立が難
しくなってきている。

 問題点のほとんどは、OJTを推進する主体となる「管理・監督者」に関す
るものである。それでは、現場の管理・監督者は、与えられた職務に対してこ
れほど不熱心なのだろうか。部下の指導・育成に対して、不熱心なのだろうか。
答は、おそらくどの企業でも「ノー」であろう。しかし、どこの企業でもOJ
Tが極めて上手く機能しているという話は聞かないし、その原因を調査すると
決まって上司がやり玉にあげられる。このギャップは何処から生まれるのか。
そもそも、OJTに求められる人材育成ニーズと管理者に求められる部下育成
のポイントがズレているのではないだろうか。

 人材開発そのものは、長期的な視点をもって継続的に行われなくてはならな
い。これに反して、管理者は短期の業績目標の達成を求められる。自分の管轄
する部署の目標を達成するために部下の現状の能力だけで不足であれば、外部
資源(会社外の専門家や専門会社)を活用したり、すでに能力を持っている人
材を採用したり、派遣社員を活用するなどあらゆる手だてを使って目標を達成
しなければならない。もちろん、これらの選択肢の中には、現有戦力のレベル
アップによる対応は含まれるし、その割合は決して小さいものではない。しか
し、たとえ現有戦力のレベルアップが見込まれなくとも、目標は達成しなけれ
ばならないとすれば、重要ではあるが優先度が高い方法ではないとも言える。

 また、部下の特長・能力の把握や、仕事の割り当て、職務を通じての仕事の
進め方の指導といったものは部下に対する人材育成というよりも、業績目標を
達成するための管理者の業務そのものである。この部分が不十分な管理者には、
OJTの進め方云々よりも、基本的なマネジメントスキルが欠如しているので
あって、その点に的を絞って教育すべきである。

 また最近増えてきた回答に見られるように、仕事そのものについて、環境変
化の激しい今日では上司が部下に教えられない、教えきれない、というのも事
実である。職務内容により違いはあるものの、特に最新技術分野などでは、実
績や経験に基づいた従来型のOJTそのものが機能しなくなってきているとい
える。

 OJTの今後を考えるにあたり、次の2点を考慮する必要があるといえる。
 一つは、管理者に求める業績の中に、部下育成やチームビルディングの視点
を追加することである。組織としてOJTや部下育成が必要と言いながら、O
JTの成果について評価が低いことが多い。例えば、読者のみなさんの会社で
目標に対し同程度の成果を挙げた2人の管理者がいた場合、一方は外部の人材
を有効活用することで成果を挙げ、もう一方は部下育成も含め現有戦力のレベ
ルアップで成果を挙げたする。みなさんの会社ではこの2人の管理者に対する
評価はどの程度違うだろうか?

 もう一つは最近の問題点として挙げられている、上司が部下に教えられない、
教えきれないという場合でのOJTについてである。この場合、管理者は、部
下(個人)の指導者ではなく、支援者であるというスタンスが必要である。全
てを自らが指導するのではなく、部下の問題点や成長の方向性を把握すること
で解決策をアドバイスするという行動が大切である。実際に解決策を講じるの
は管理者以外の人間でも何の問題もない。

 「OJTは人材育成の柱である」と言いながら、管理者に対し評価も支援も
しない組織は、社員の教育、能力開発の責任を管理者に押しつけているだけで
あって、これではどんな管理者であっても実効があがらない。これは管理者の
問題ではなく、組織そのもの、または組織としての人材開発の問題である。O
JTが上手く行かないと言われる企業は、どのあたりに問題があるか検討して
みてはいかがだろうか?


             (1999/07/19 人材開発メールニュース第48号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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