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エンプロイアビリティー
 エンプロイアビリティーとは、「雇用する」(Employ)と能力(Ability)を
組み合わせ作られた言葉である。
 エンプロイアビリティーは、2つの側面から見ることができる。1つは、何
らかの理由で現在の勤務先を離れ社外に出る場合に、他の会社、組織から採用
されるかという視点である。すなわち、一人のビジネスマンとして社外に通用
する能力をどの程度持っているかと言う視点である。市場価値または転職可能
能力と言い換えることができる。現在日常的には、こちらの意味で使われてい
るケースが多い。もう1つは、今いる組織で雇用を継続される価値のある人材
であるかという視点である。現在価値または継続雇用可能性と言い換えること
ができる。いずれにせよ、リストラやダウンサイジングが進む中で、労働者は
自らのエンプロイアビリティーを高める必要があるという認識が強まっている。

 企業と個人の関係において、個人は雇用され続けるために、絶えず自己の責
任において自発的な能力開発を行い、自らのエンプロイアビリティーを高めて
行くことが必要である。企業は、よりよい人材が採用、活躍、定着できる環境
を提供することが必要になる。
 企業と個人(人材)は、「舞台」と「役者」のような関係であることが望ま
しい。役者は、自らの芸を磨き、よりよい舞台に立てる努力が必要である。舞
台は、環境を整備することで、よりよい役者が集まる努力が必要である。そし
て役者と舞台が揃って、お客様(市場)に魅力的な作品を提供し、喜んでいた
だき、また足を運んでいただく努力が必要である。逆に言えば、客を呼べない
役者はいつでも降板する可能性があり、また環境を整備しない舞台であれば、
才能豊かな役者を呼ぶことはできない。さらに注意したいのは、舞台が悪い、
役者が悪いという視点だけで話を進めている限り、いつまでもお客を満足させ
ることはできないと言うことである。互いにプロの役者、プロの興業主として
自立した存在であり、双方が満足を得られる発展的な共存関係を構築すること
が望まれる。

 エンプロイアビリティーに注目が集まる中で、人材開発サービスを提供する
機関の動きを見ると、外資系のヘッドハンター会社やコンサルティング会社を
中心に、市場価値の推定を行うことや自分の市場価値の自覚とキャリア計画を
組み合わせた講習会や社内研修が登場している。また当社においても、20代〜
30代の社員を対象にキャリアの棚卸しとキャリア開発計画作成をカウンセリ
ング方式で導入する仕事をお手伝いさせていただいている。
 企業サイドにおいても、社員のエンプロイアビリティーを評価・向上を図る
ために、上記のような外部機関へのアウトソーシングや、成果・実績主義への
評価制度の導入や変更、目標管理制度の再構築、選択型の教育研修制度の導入
などが進められている。今後もこのような取り組みはますます増えてくると予
想される。

 エンプロイアビリティーの話を進める中で、その具体策として必ず資格や語
学、パソコン活用能力の向上が挙げられる。しかし、資格や外国語力やパソコ
ン活用能力などは必ずしも幹部社員に期待されるスキルではない。これらの能
力は、エンプロイアビリティーを転職可能能力として捕らえたときに、エンプ
ロイアビリティーを高める方法の一つであることは間違いない。しかしこれは、
エンプロイアビリティーの一面にしかすぎない。現在エンプロイアビリティー
の開発を進める際に、このような能力開発ばかりが話題になることが多いので、
敢えて注意をしたい。
 むしろ人事教育部門に要求されるのは、継続雇用可能性が高い人材とは何か
を明確にすることである。すなわち、コア業務は何かを考えることであり、ま
たコア業務を推進するための人材像を描くことであり、そのための人材開発施
策を講じることである。転職可能能力と意味でのエンプロイアビリティーの開
発は、社員の自己責任に委ねる形で、積極的にアウトソーシングを進め、継続
雇用可能性という意味でのエンプロイアビリティーの開発に資源を集中する必
要があると言える。


             (1999/05/03 人材開発メールニュース第37号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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