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戦略的集合研修の進め方(2)
 前回に引き続き、戦略的な集合研修を実施するためのフレームワークについ
て整理と、その過程で派生する教育部門に求められる役割について考えていき
たい。前回は、戦略的集合研修の進め方として次のプロセスを踏むことを説明
した。
 従来型集合研修(1)対 象 者 → (2)研修テーマ → (3)プログラム
 戦略的集合研修(1)研修テーマ → (2)対 象 者 → (3)プログラム

 戦略的に集合研修を進めるためには、経営戦略や事業戦略から導き出される
研修テーマを設定すること。全社員一律に教育するのではなく、研修の費用対
効果を上げるために、将来を担う人材を選抜して集中的に資本を投下すること
が求められている。
 今回は、最終的な実施プロセスである研修プログラムについて考えていきた
い。

 研修プログラムは一般的には、外部の専門団体(教育団体やコンサルティン
グファーム)に依頼することが多い。この場合、注意すべき点が2つある。
 ひとつはその専門団体の姿勢である。人材開発について自身の哲学を持って
いるか、クライアントの立場を真剣に理解し、本気で役に立とうとしているか
という点について確認しなければならない。外部の専門団体は当事者ではない。
それゆえ姿勢の確立していない専門団体の中には、安易に他社で使用したプロ
グラムをそのまま使い回すケースが見受けられる。全く同様のねらいや課題で
あれば、そういうケースもあるだろう。しかし、十分なヒアリングもないまま
に、プログラムを提示された場合には要注意である。クライアント側の背景や
意図を知らずして、一体どのような提案ができるというのだろうか。人材開発
スタッフは、まず専門団体の姿勢を正しく見ぬくことを心がける必要がある。
 ニつ目は、専門団体の力量である。ねらいを実現できる企画構成力があるの
か、人材開発に関して豊富な情報を持っているのか、質の高い講師ネットワー
クをもっているのかという点を判断することが大切である。
 いずれにしても、数ある専門団体から一つを選ぶには、直接の窓口である人
材開発スタッフの見極める力が要求される。
  さて、プログラム内容をすべて外部の専門団体に委ねるのはいかがなものだ
ろうか。自社の問題は、自社で解決するのが原則である。作業実施レベルで外
注化することは、経済的にも妥当性があるだろう。しかし、経営戦略と直接的
に関連する戦略的集合研修において、ソフトの外注化は経営の根幹そのものを
外部に依存することとなり、目的にそぐわない。教育部門の存在意義を確立す
るためにも、自社独自のプログラム開発志向は必要であろう。
  確かに、いっきに独自開発へ向かうのは難しい。そこで手順として、まずパー
トナーにふさわしい外部の専門団体を探すことである。次に、その専門団体に
いわばプロジェクト的にメンバーの一員として関わってもらい、人材開発スタッ
フとの協働によるプログラム開発を実行すること。その過程で人材開発スタッ
フは、専門団体からさまざまなノウハウを吸収し、最後は自力でできるレベル
になるというものである。この方法は、人材開発スタッフの専門性を高めるに
は、かなり有効な手段だといえるし、人材開発の独自性を実現することにもな
る。ただし、本当のパートナーシップを確立できる専門団体を見つけることが
前提条件になることはいうまでもない。
 また最近の事例では、株式会社レナウンとウィルソン・ラーニングワールド
ワイド株式会社による株式会社レナウンアカデミーの設立など、企業と専門団
体との共同出資による新会社設立の動きも見られるようになった。これは、独
自開発のスピードを高めるとともにより高い専門性を追求した新たな形態であ
る。今後はこのような専門団体との新たなパートナーシップを確立する動きも
ますます活発化することが予想される。

 最後に戦略的集合研修を実施する講師について考えてみたい。
  これも原則は研修プログラムの場合と同様である。一般的には外部の講師に
依頼するところから始まる。その際に気をつけるべきことは、指導実績に惑わ
されないことである。大事なことは、どんな企業でやってきたかではなく、ど
んな研修を行なってきたかということである。講師経歴書は参考程度にとどめ
るべきで、実際に事前に面談し、どんな考え方をもっているかを確認すること
が大切である。
 もちろん面談したとしても、その講師のスキルがわかるわけではない。ただ
対話を通じてさまざまなものが見えてくるはずである。少なくとも、講師の人
材開発に関する姿勢と見識は明らかになる。戦略的集合研修で必要なのは、イ
ンストラクターとしてのスキルの優劣ではなく、カタリスト(触媒)としての影
響力の大小なのである。
  当然、人材開発スタッフも講師を評価するだけの知識・見識を備えておかな
ければならない。さらにいえば、社内講師の育成を検討すべきであろう。社内
公募で指向性のある人材を集め、外部の力を借りながら、講師として養成する
システムをつくることを薦めたい。


             (1999/04/19 人材開発メールニュース第35号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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