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戦略的集合研修の進め方(1)
 前回のコラムで、教育部門の現状について述べた。
多様化する教育ニーズやトップのアウトプットに対する高い期待がある一方、
教育予算の削減や教育部門の他部門への統廃合など資源の制約が進む動きが見
られ、意識レベルが高い教育スタッフの方ほど、この相反する課題解決に向け
て悪戦苦闘の毎日を送られているのではないだろうか。今まさに、教育担当部
門の存在意義が問われている。
 教育部門の存在意義を示すためには、個人の能力開発支援とコア人材の育成
が必要である。特にコア業務を遂行するためのコア人材の育成は、企業の存在
そのものに影響を及ぼすため、教育部門の存在意義が最も問われる局面である。
そしてコア人材を育成の最も効果的な方法として、集合研修(集合研修の持つ
特性を活かした)を活用すべきだということを述べた。そこで今回から数回に
わたり、戦略的な集合研修を実施するためのフレームワークについて整理して
いきながら、その過程で派生する教育部門に求められる役割について考えてい
きたい。

 従来型集合研修では、階層別研修に代表されるように、対象者が先に決まり、
対象者を想定し研修テーマが決定される方法がとられてきた。

 従来型集合研修 (1)対 象 者 → (2)研修テーマ → (3)プログラム
 戦略的集合研修 (1)研修テーマ → (2)対 象 者 → (3)プログラム

 しかし戦略的な集合研修では、まず先に研修テーマを決定することから始める。
中長期の視点から人材開発課題を整理し、緊急度、影響度の視点から優先順位
を決める。次にテーマを通じて最も育成したい対象者を決定する。そしてテー
マの目的にあったプログラム(講師も含め)を開発するという手順を踏むこと
になる。これは従来型集合研修が、これまでの基準により現状の改善する志向
が強かったのに対し、戦略型集合研修では、あくまでも将来から現状を見る中
で生まれてくる課題に対応するためである。

<研修テーマの策定時のポイント>
 研修テーマの決定のポイントは、経営戦略、事業戦略である。
経営戦略、事業戦略から人材開発課題への展開が必要になる。そのため、教育
スタッフには経営戦略の徹底的な理解が求められる。そして次に、経営戦略か
ら導き出された研修テーマの意図が研修受講者のみならず、全社員に理解され
るレベルで打ち出されることが求められる。経営戦略、事業戦略から導き出さ
れた研修の意図=会社の意図である。研修の意図に対する受講者の理解は、受
講者の参加意識、参加姿勢に影響を与え、全社員の理解は受講者を取り巻く環
境(受講者に対する期待、受講者に対する理解)に影響を与える。

 経営戦略をブレークダウンして研修テーマを設定することはもちろん重要で
あるが、研修テーマの社内への理解、浸透を図るためのコミュニケーションは、
これまで不足していた部分ではないだろうか?
 従来、教育部門の社内に対するコミュニケーションは、どちらかというとコ
ミュニケーションと言うよりも広報的な意味合いが強く、一方通行であったよ
うに思える。(情報発信そのものが不足していることも多いが...)
 ただ単に、情報発信するだけでなく、発信された情報が社員に共有されてい
るかどうかを確認しつつ、確認するプロセスの中で得られた情報を、さらに人
材開発施策に反映していく、双方向の情報管理が必要である。もちろんこの場
合の情報の共有は、言葉レベルの共有ではなく、意味レベルの共有である。

 研修の意図を社内にPRし、かつ社内での理解、浸透を確認する作業には、
2つの視点がある。1つは全体レベルでの視点、もう1つは個人レベルでの視
点である。
 全体レベルの視点とは、文字通り社内全体の理解度を確認することであり、
教育部門からの情報発信プロセスすなわち意図の理解、浸透を図るために講じ
た情報伝達手段が適当であったかを評価する視点である。より効果的により効
率的に社内での理解を深めるには何が必要かという問いかけが必要である。
 これに対し、個人レベルの視点では、経営戦略や研修の意図の理解度が高い
社員の探索がポイントとなる。理解度の高い社員は、コア人材の母集団である。
次のステップの受講者選抜する際のひとつの基準ともなる。
 教育部門のコミュニケーションは、人材を通して社内に経営戦略を理解させ
ることである。また、社内における理解度の確認活動は、コア人材の予備軍の
調査、選抜を可能にする。教育部門は、この二つの活動を通して、経営戦略の
実行素地をつくる機能を果たし、経営戦略を推進する戦略スタッフとしての地
位を獲得することができる。その意味で教育部門のコミュニケーション機能は
今後ますます重視されるであろう。

 教育部門の業務は、何をやるか、何をやったかという点だけで計画・実行・
評価されてきた傾向がある。しかし、企業の競争力を確保するためのコア人材
の育成をするためには、今後はむしろ何故やるのかという視点から業務を再構
築する必要がある。現在、研修企画で悩まれている教育担当者の方は、プログ
ラム内容をいったん捨てて、何故研修をやるかのか、すなわちご自身の人材開
発への想いやこだわりについて部門を問わず情報交換をしてみてはいかがだろ
うか?


             (1999/04/05 人材開発メールニュース第33号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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