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営業情報システムと人材開発
 情報端末やノートパソコンを全営業マンもしくは全社員に配布し、電子メー
ル、グループウェア、データベースなどの情報技術を活用することで、商談の
質やスピードを上げる、すなわち営業生産性を向上させる取り組みが多くの企
業で実施されている。
 しかしながら、実際に営業情報システムを導入したが、思うような展開を図
れず悩んでいる企業も多い。人事教育担当部門においても、情報システムをよ
り効率的、効果的に運用するための人材開発が大きなテーマとなっている。営
業情報システムは、各企業ごとに戦略の発想の違いから、運用方法はそれぞれ
異なるが、人材開発上の相談は、大きく次の二つの場面に集約される。一つは
情報の入口(INPUT)もう一つは情報の出口(OUTPUT)の場面であ
る。そこで、今回は、二つの場面で派生する人材開発課題などについて簡単に
述べていきたい。

1.入口(INPUT)場面の課題
 INPUT場面での問題は、情報入力が質、量ともに不十分なため、結果と
して必要な情報が流通しない(必要でない情報が流通している)、また意図す
る情報が蓄積されていないということが挙げられる。「情報は次から次へと流
されてくるが、役に立つ情報がない」、「情報に不十分な点が多く、再度確認
することが多い」などの声は、この例の典型である。
 何のためのシステムかという目的が曖昧なまま、情報だけが入力、流通、蓄
積されているケースが多い。特に全社でメールを導入した企業で指摘されるこ
とは、社員の文書力の問題である。書く力と言うよりも、構成する力、意識レ
ベルが課題として挙げられている。読み手(受け手)にとってわかりやすい形
で情報が提供されてない等、読み手を意識せずに情報が発信され、返って混乱
を招く状況に陥っている。定量的データではさほど問題はないが、定性的デー
タの蓄積・分析が求められる環境では、文書力の個人(部門、企業)格差は、
今後のさらに大きな人材開発テーマになるに違いない。
 既にこの分野を人材開発課題と考え取り組んでいる企業では、システムの目
的・意図を社員に徹底させる教育、ビジネス文書フォーマットの見直し、役職
上位、下位を問わずビジネス文書の再教育などが行われている。

2.出口(OUTPUT)場面の課題
 これに対し、OUTPUT場面での問題は、出力された情報の活用できてい
ないと言うことである。データの分析が不足しているというよりも、得られた
データから次のビジネスチャンスを見つけだす力が不足している。一般的に仮
説立案力と言われているが、仮説立案力こそが、営業情報システムの成否の鍵
を握っていると言える。
 それでは、仮説検証力を高める方法には、どのようなものがあるのだろうか?
 組織レベルでは、仮説という言葉を社内の共通言語として利用するなど、意
識的に仮説立案を生み出す風土作りが必要である。そして次に必要なのは、仮
説立案に基づいた営業事例の共有化である。成功、失敗に関わらず、営業マン
が繰り広げる仮説−検証プロセスを全社で共有し、仮説−検証プロセスに関す
る情報量を増やし、仮説の質を上げていく取り組みが必要になる。
 個人レベルにおいては、一般的な言い方にはなるが、ビジネスセンスを高め
る取り組みが必要になる。顧客にモノ、サービスを提供するだけでなく、顧客
の課題解決を実現するためには、顧客の課題を正確に把握することがまず必要
である。そのためには、より広いマーケティングや経営に関する知識の底上げ
が必要である。
 地道ではあるが、システム導入から1年間、毎月営業会議でデータの読み方
を研修し、着実に成果を出している企業もある。

 仮説立案力のレベルアップは、今後の企業経営の重要なファクターであると
多くの識者が指摘している。しかし、組織、個人レベルどちらの取り組みも一
朝一夕で片づく課題では無い。また人材開発サービスを提供する教育機関やコ
ンサルタントでも、唯一絶対というパッケージプログラムを提供できるもので
はない。むしろ外部教育機関利用方法としては、プログラム提供を求めるより
も、各社の情報システムに併せた形で人材開発プログラムを共に作り出すとい
う姿勢が必要であろう。
 人事教育担当部門においては、システム運用に関する人材育成自体が、人事
教育部門の仮説立案力が試される領域であると考え、独自性の高い人材育成施
策の開発を期待したい。


             (1999/03/15 人材開発メールニュース第30号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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