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経営戦略と人材開発(3)
 経営戦略を策定、実行するのがヒト(=人材)である以上、経営戦略と人材開発
のリンクは、ますます重要性が高くなっている。経営戦略と人材開発のリンクを図
るために必要なものとして、まず前回、経営トップの人材開発に関するスタンス、
人材開発への想い(ビジョン)を取り上げた。
 経営トップの人材開発への想い(ビジョン)が明確になれば、次にビジョンの具
現化を推進する役割を担う人材開発部門・担当者がクローズアップされる。経営戦
略と人材開発のリンクを図るためには、人材開発においても経営戦略と同様に中長
期的な視点に基づいた人材開発戦略が必要なってくる。人材開発戦略を策定、実行
する人材開発部門・担当者の役割が非常に重要な鍵を握っている。

 これからの人材開発担当者は、経営トップの「我が社をこうしたい」という経営
ビジョンに基づき、ビジョンを具現化するための人材開発戦略を現場に働きかけな
がら達成していかなければならない。現場での展開を図るには、まず経営ビジョン
や人材開発ビジョンの優れた理解者でなければならない。現場で人材開発の理解を
得るためには、「人材開発の必要性」を説いていかなければならない。そのために
は、「人材開発がなぜ必要か」という問いに対して、トップの言葉ではなく、自分
の言葉や想いを語らなければ、現場に対して影響力を与えることはできない。言い
換えれば、人材開発部門・担当者の存在意義が問われているのである。経営トップ
に「人材開発をなぜやるのか」という本質的な問いかけが必要であることと同様に
人材開発担当者も「われわれの存在意義は何なのかについて」明確な答えを持って
いなければ、人材開発戦略の遂行はできない。他の経営諸機能に取って代わられる
ことができない、人材開発部門や担当者の確固たる存在意義を確立することが求め
られている。
 次に人材開発担当者に求められているのは、戦略スタッフとしての専門性である。
人材開発のビジョンおよび方向性についてはトップから出されるが、それを具体的
に遂行するためには、中長期的な視点に基づいた独自の人材開発の戦略策定が必要
である。他社との競争優位性を保つ人材開発を目指すのであれば、他社との人材開
発システムの差別化を図る必要がある。そして、現在のように先行きが不透明な環
境において戦略を確実に実行するためには、経営戦略との兼ね合いの中で戦略の絞
り込みが必要になる。また絞り込んだ戦略が確実に実行されるためには戦略を実行
していく中で、現場とのコミュニケーションを積極的に行い、経営戦略,各現場の
事業戦略,人材開発がそれぞれリンクする形でのフィードバックが必要になる。


 しかし、人材開発担当者に存在意義へのコミットメントや戦略を策定、推進者と
しての高い専門性が要求されつつも、多くの企業では、人材開発(人事・教育)部
門への配属はジョブ・ローテーションの一環として行われているケースが多い。人
材開発担当者が存在意義に対して、コミットメントしにくい環境が存在する。人材
開発担当者として一通りの業務を覚えた段階で、他部門へ移るというケースも少な
くない。ジョブ・ローテーションを否定するわけではないが、人材開発をこれから
の経営の最重要課題と考える企業においては、この点見直しも含め、人材開発担当
者の在り方について十分な検討が必要であろう。 競合他社との競争優位性を確保
するためには、自社独自の人材開発部門や担当者の存在意義の確立、自社の独自の
人材開発担当者の育成が重要なポイントになってくるであろう。


             (1998/09/28 人材開発メールニュース第7号掲載)
                         WISEPROJECT:吉次 潤


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