Back Number 経営戦略と人材開発(2) 現在の先行きが不透明な環境の中では、戦略づくり、事業づくりといった点での ヒトの重要性が高まってくる。特に経営資源に制約がある企業では、戦略絞り込み が重要なテーマとなり、絞り込んだ戦略は確実に実行・実現していかなければなら ない。 戦略の策定から実行を担うのはヒトであり、ヒトの能力如何が戦略の実現可能性 を左右する。そのため、経営戦略と人材開発のリンクは必要性が高まっている。 それでは、経営戦略と人材開発のリンクために、何が必要になるのだろうか?ま ず、最初に必要なのは、人材開発に中長期的な視点を取り入れることである。これ までの人材育成は、設定された目標を確実に効率的に遂行していく知識やスキルを 付与することに重点がおかれていた傾向が強い。また、OJTにおいても、中長期 的な視点で部下の能力開発を促進するというよりは、即効性を重視した指導に重点 が置かれていたのではないだろうか。これまでの人材育成やOJTを否定するわけ ではないが、もはやそれだけでは、戦略づくり、事業づくりのための人材開発とい うニーズに応えられない。 戦略を構想したり、事業を開発したり、新規事業をマネジメントする能力は、す ぐに身に付くものではない。予め事業の方向性を考慮した上で、戦略的に育成する とともに、具体的な実践的な場を与えていくことで、能力開発をすることが必要で ある。そのためには、人材開発に中長期的な視点を取り入れるとともに、現在の人 材の能力資源を棚卸した上で、戦略を検討していく姿勢が必要になる。 少なくとも、経営者や人材開発担当者は、求められる人材と現在の人材のギャッ プについて、以下の観点から十分に検討しておきたい。 □戦略を遂行するためには、どのような能力レベルの人材がどの程度必要か。 □それは、自社でまかなえるか(外部から採用は可能か)。 □現在、社内に必要な専門能力にはどのようなものがあるか。 □今後、必要となる専門能力にはどのようなものがあるか。 □それぞれの能力を持った人材の数とその能力水準はどの程度か。 □それらはライバル他社と比較してどういうレベルにあるか。 □その結果、どのような能力を特にレベルアップしなければならないか。 次に必要なのは、経営トップの人材開発に関するスタンスである。すなわち、経 営戦略と人材開発のリンクを経営の意志として進めていくことである。 多くの企業において、「人材開発」「人材育成」は、経営の重点施策の一つに必 ず挙げられている。それは、前述の戦略と人材のリンクの必要性やヒトという経営 資源の重要性を十分認識しているからであろう。 しかし、実際は人件費比率や総人件費、あるいは労働生産性という数値化される データには関心があっても、人材の質が目指すべき人材ビジョンに向けてどのくら い向上しているか、についてはあまり関心は持たれていないことが多い。 その理由のひとつとして、人材開発、人材育成の効果測定が困難であるというこ とが挙げられる。人材開発・人材育成は、他の経営施策(例えば、設備投資や新事 業開発など)のように、ある期間実行すれば測定可能な結果がでるものではなく、 費用対効果が見えいにくい。そのため、経営トップは、人材開発の必要性は頭の中 では十分に認識しても、施策としての人材開発の有効性に対する確信や期待が高く ないのではないだろうか。 それでも、経営トップのほとんどが、経営課題の一つとして人材開発を挙げてい るのは、間違いない。そうであれば、少なくとも、本気でヒトを育てる姿勢が必要 である。お題目としての人材開発ではなく、人材開発に本気で取り組むことを経営 の意志として明確に示す必要がある。 人材開発に本気で取り組むためには、人材開発に対する本質的な問いかけが必要 である。人材開発や教育は、今まで、やることが当たり前といった風潮が存在する。 教育をやることには、誰も疑問を持たず、むしろどうやるかという、方法論ばかり に注意が向く傾向にある。例えば、新入社員研修は、ほとんどの企業で実施されて いるが、どのようにやるかということに関しては検討されていても、なぜやるのか ということは、あまり検討されていないのではないだろうか。 経営トップは、経営戦略と人材開発リンクの必要性を、論理的に理解するだけで なく、それは自社にとってどんな意味があるのか、本当に必要かという本質的な問 いかけを通じて、トップ自身が人材開発に対する認識や想いを明確にすることが必 要である。本質的な問いかけを通じて形成された、トップ自身のに対する想いは、 人材開発ビジョンに反映され、以後、組織として人材開発を推進していくための、 重要なモチベーションとなる。 経営トップが、経営戦略と人材開発のリンクを進めていくためには、人材開発の Know−Howを模索することよりも、人材開発に対する本質的な問いかけ Know−Whyを追求していくことがまず必要である。 (1998/09/21 人材開発メールニュース第6号掲載) WISEPROJECT:吉次 潤 Go to Back Number Index Go to Top Page |